ストーリー

私は、子供の前ではうれしい時しか泣かないようにしている。

悲しくて唯一泣いたのは、 「離婚した時」。

 

そんな私が辛く今にも泣きそうだったけど、必死に我慢した事がある。

私には息子が二人いて、両方とも一人暮らしをしている。

次男はずっと野球をしていた。

本当に心から野球が好きで、小学校の時から色んなポジションをして、中学では硬式野球のクラブチームでやってみたいと言った。

 

正直、部活を選ぶ方がお金も掛からないし、親も楽なんだけど。

 

子供がやりたい事をやらせるのを私達夫婦は決めていたので、やらせてみる事にした。

 

次男は決して足が速い訳ではなく(親に似て)、
飛び抜けた才能もなかったけれど、
絶対に練習で手を抜かない子だったそうだ。

 

後で聞いた話だが、余力を残そうと考えがちな、タイムランは最初から全速力で走り、 100本ノックも最初から動けなくなるまで全力。

 

監督やコーチもそんな頑張りを良く見てくれていて、一番成長したと、評価してくれていた。

 

決して打てる方ではなかったけれど、試合もいつも出してもらえていた。

 

ちなみに私達親の方は、夫婦で手伝っているとお金も時間も使い、大変過ぎてケンカが絶えなかった。…まぁこれはどちらでもいいとして。

 

中学の大会が終わって、子供たちが一人ずつ挨拶をした時、自分の子に父兄の皆さんが涙していた。

 

それ程皆さんが彼の頑張りを私達以上に、見てくれていた。

高校に進み、あまり出場機会は無かったけれど、 この子の年は、2年の3月にコロナで休校になり、夏の甲子園も無かった。

 

最後の代替大会だけはあった野球はまだしも、他の競技の子達は、インターハイも県大会も、無かった年。

 

それが知らされた時、子供の頑張りを思うと本当に泣きたかったが、本人が家族の誰よりも辛いはずで、同じ想いを持つ子達がたくさんいる。

 

息子は一人部屋で泣いていたのが分かったし、私も泣きたいのを必死に我慢した。

 

夏が終わり、息子は突然 「自動車整備士になりたい」 と言った。

 

男の子って、車・電車派か、ヒーロー派に分かれるんだけど、仮面ライダーに夢中で、自動車はあまり興味も無かった。

二級整備士を取って、今は一級整備士を目指している。

 

高校時代のあの、二度見してしまうような成績が考えられないくらいに好成績を残している。

 

今は里帰りしてて、 私「えー、洗濯物増えたし!早く戻りなよ(笑)」 娘「いつまでいるんよー(笑)」 息子「まだ帰らないし!」 という冗談を飛ばしている。

 

そしてまさかの、数学嫌いなのにこの夏は自動車の開発から求人が来て見学に行くらしい。

 

努力は報われない事ってたくさんあるんだけど、時間を経て報われる事も、あるんだよね。

 

この年の子達、本当に辛かったと思う。

 

球児の皆さん、応援する控えの選手、父兄の皆さんを見る度に色んな思い出がオーバーラップする。

 

でも一緒に頑張った部活の仲間との思い出は消えない。

 

子供にはいつも、部活の仲間は大事にしなよ、と言っている。

 

いつか報われる日まで、自分らしさを忘れずに進んでほしい。

 

私も今日、恩師の退職祝いに高校時代の部活仲間と、10年ぶりに全員揃って会う事になっている。

 

卒業して30年近く経つけど、私たちはまだ、全員繋がっている。

 

ある時、仲間が 「あの時があるから今があるんだよね」と言った。

 

だから今、私も頑張れている。2023.8.14

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